「不動産の購入による減価償却費の計上で節税できます」という説明をしている業者がありますが、もう少し正確な説明を行った方が良さそうです。
結論から言えば、不動産の購入による減価償却費の計上では節税にはなりません。課税の繰延べが行われるに過ぎません。
具体例で考察してみましょう。
まず、不動産を購入していない状態、つまり減価償却費の計上がない基本モデルを設定します。
期首 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 6年目 | 累計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
所得 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 6,000 | |
減価償却費 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
売却益 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
税引き前所得 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 6,000 | |
税金 (税率:40%) | 400 | 400 | 400 | 400 | 400 | 400 | 2,400 | |
税引き後所得 | 600 | 600 | 600 | 600 | 600 | 600 | 3,600 |
これに対して、500の不動産を購入し、毎年100の減価償却費を5年間計上し、6年目に購入金額と同額で売却したケースは次のとおりとなります。
期首 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 6年目 | 累計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
所得 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 6,000 | |
減価償却費 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 0 | 500 | |
売却益 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 500 | 500 | |
税引き前所得 | 900 | 900 | 900 | 900 | 900 | 1,500 | 6,000 | |
税金 (税率:40%) | 360 | 360 | 360 | 360 | 360 | 600 | 2,400 | |
税引き後所得 | 540 | 540 | 540 | 540 | 540 | 900 | 3,600 | |
税金差額 | -60 | -60 | -60 | -60 | -60 | 300 | ||
取得資産簿価 | 500 | 400 | 300 | 200 | 100 | 0 | ||
減価償却費 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
毎年、減価償却費を100ずつ計上しますので、税効果により1年目から5年目までは、支払う税金が60減少します。累計で300(=60×5年)の税金支払い額が減少します。
一方、6年目に不動産を売却すると支払う税金が300増えます。従いまして、6年間の累計では、支払う税金の金額に差異はありません。
つまり、当面(当初5年間)の税金支払い額が減少して、将来(6年目)の支払い税金額が増えるので、支払う税金を繰延べしていることになります。
投資で不動産を購入する場合、永久にその不動産を保有するのではなく、仮に長期投資であってもいつかはExit(売却)することになりますので、減価償却費の計上によって支払う税金の額が累計で減少することはありません。
これで、減価償却費の計上に節税効果はなく、税の繰延べ効果があるに過ぎないことがお分かり頂けたと思います。
なお、日本の税制上、分離課税が選択できることで納税額を減らすことができる場合がありますが、それは減価償却費の計上がもたらす訳ではありません。