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節税という甘い言葉

「節税」という甘い言葉に魅力を感じて投資を決断する方がいらっしゃいます。例えば、「減価償却費を用いた節税スキーム」などをうたい文句にしている業者も多々あります。不動産投資における建物の減価償却には節税効果が無いことは別途説明しますが、そもそも「節税」とは何かを考えてみましょう。

端的に言ってしまえば、「節税」などという美味しいことはできません。税金は実質主義で課税されるものであって、実質的に同じ取引を行った者が複数存在するときに、納税者によって納税額が異なるような稚拙な税法などあり得ません。例えば、AさんとBさんは同じ不動産投資を行ったのに、Aさんは節税対策を行ったのでBさんより納税額が減るということなどあり得ません。節税という工夫を行うことによって得をするようなことがあれば不公平です。税法は、公平な課税を目指しており、節税という行為ができないように最大限の工夫がなされています。従いまして、そもそも「節税」なる概念は存在しないと本来は考えるべきです。

そうは言っても、不動産の長期保有に伴う税率の低減によって、納税額が減少することを「節税」ということにまでは反対致しません。少し、説明いたしましょう。

マレーシアでは購入した不動産を5年以上経過してから売却すると、売却益に税金がかかりません。一方、購入してから2年以上5年未満の時期に不動産を売却すると10%のキャピタルゲイン課税があります。そのため、不動産を購入してから4年11カ月後に売却すれば売却益に10%の税金がかかりますが、もう少し待って5年を過ぎてから売却すれば無税となります。従って、このような税法の知識がある人は、5年を過ぎてから売却する行動を取るでしょうが、これを「節税」であると説明するのを絶対におかしいとまでは申し上げません。しかしながら、よく考えてみれば、単に税法の規定に従っているだけ、すなわち長期保有による税率低減の恩恵を受けているだけです。税理士に相談したところ、「4年11カ月で売却するなら、もう少し時間が経過して5年を超えれば節税ができますよ」と説明を受けて、確かに税金が減るのであるから「節税」になったと思っても、それはそれで良しとしましょう。

不動産の長期保有による税率低減の恩恵などの例は、税法に従っていることから適法な行為となりますが、税法に違反して納税額が少なくなるのであれば、それは違法行為、すなわち脱税となります。「納税すべき所得を申告しない」といった行為や「仮装隠ぺい」などは、法律に違反する行為ですので、明らかに脱税となります。

非常に厄介なのは、適法行為である「節税」と違法行為である「脱税」との間に「租税回避」というグレーゾーンが存在していることです。

タックス・ヘイブンという言葉を聞いたことがあると思います。このヘイブン(Haven)とは、「避難所・避難港」という意味であり、タックス・ヘイブンとは「インカム・タックス(所得税や法人税等)が無いかほとんど無い国や地域」のことを言います。このような、タックス・ヘイブンを経由する取引が租税回避の典型として挙げられますが、このような租税回避行為が適法なのか違法なのかが判然としないケースがあります。タックス・ヘイブンを経由する一連の取引は、ほとんどの場合は各国の税法の規定に少なくとも形式的には適合しています。各国の税法に適合していないことが明らかな場合は、当然に違法行為であり脱税となってしまいます。一方、各国の税法に少なくとも形式的には適合しているが、実質的には違法である場合は、「節税」にはならず「脱税」になってしまします。このような行為の判定は、実質的に行われることから、理論的に分水嶺を定めることは困難であろうと思います。

タックス・ヘイブンでの取引は直ちに「違法」と思っている方も多いのかも知れませんが、グローバルに活動する世界の一流企業や著名な投資ファンドは、そのほとんどがタックス・ヘイブンでの取引を少なからず行っており、そのほとんどは適法です。税務当局との争いが絶えないようであり、脱税と判断されるケースも稀にあるようですが、そのような違法な取引は極めて僅かです*。なぜなら、おびただしい数のタックス・ヘイブン取引のうち、違法と認定されたのは極めて僅かだからです。

このように考察してくると、「節税」と「脱税」の間にある「租税回避」のうち、合法的な取引を行うことが経済合理性のある行動なのかもしれません。


*1
マネーロンダリングは、しばしばタックス・ヘイブンを舞台に行われることがあります。マネーロンダリングは、当然に違法な行為ですが、これがタックス・ヘイブンで行われることがあるので、タックス・ヘイブンでの取引が直ちに違法行為あるいは脱税行為と思ってしまう方がいるようです。確かに、タックス・ヘイブンにおいて脱税行為が行われることもあるのでしょうが、それはほんの氷山の一角に過ぎません。タックス・ヘイブンにおける取引のほとんどは適法であることが実態です。そうでなければ、コンプライアンス遵守に真摯に取り組んでいる一流企業や投資ファンドは、タックス・ヘイブンにおける取引から手を引くはずです。
*2
「税法の規定をフルに使えば節税できます」といった説明がなされている場合があります。これは、無駄に支払っている税金を税法に従った正しい納税額にするだけであり、節税とは言えないでしょう。ただし、税法にもグレーゾーンがあり、ここを利用するのは「合法的な租税回避」となる場合はあります。
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