金融ビジネスに携わった人であれば、「オフショア・センター」というのは馴染みのある概念ですが、一般にはあまり理解されていないようです。
オフショアがあるということは、その対概念としてオンショアもありますので、これらについて説明しましょう。
金融取引には、「内内取引」、「内外取引」、「外外取引」の3つの態様があります。まず、内内取引とは、取引の当事者が両方とも国内である場合を言います。次に、内外取引とは、当事者の一方が国内で他方が国外である場合を言います。各国のFSA(Financial Supervisory Agency:金融庁)は、自国内の取引が関連する「内内取引」と「内外取引」に関しては、監督権を行使してさまざまな規制を行っています。また、これら2つの取引態様をオンショア取引と言っています。
これに対して、外外取引というのは、取引の両当事者が国外であって、金融取引が行われる場所は、いわゆる「場所貸し」を行っているに過ぎません。例えば、日本の会社がロンドンの金融街であるシティで債券を発行して、その債券の購入者が米国人であれば、外外取引になります。まさに、ロンドンは場所を貸しているだけです。
ロンドンは、世界一の規模を誇るオフショア・センターと言われていますが、英国のFSAにとってみれば、所詮は国外の者同士の取引なので、オンショア取引ほどに神経質になる必要はありません。そこで、規制が緩和されていたり、税金の優遇があったりします。
当たり前のことですが、メリットがなければ、つまり経済合理性がなければ、オフショアを利用する人はいない訳ですが、オンショアではできない取引が可能となったり、税の優遇があったりしますので、オフショア取引は、金融の世界では珍しいことではありません。先ほどの取引で税のことを英国政府の立場で考えてみると、債券を発行するのは日本企業であって、それを購入するのは米国人ですから、それに英国が課税するというのも何か変な気がしますね。そこで、オフショア・センターは「場所貸し料」を取りますが、税に関しては優遇されているところがほとんどです。金融ビジネスは、大きなお金が動きますから、僅かなレートの「場所貸し料」であってもそれなりの収益をもたらしますし、ロンドンの金融機関に収益がもたらせれば、そこから英国政府は税金が取れますね。
このように、取引の当事者にも、「場所貸し」をしている当事者にも、すべてにメリットがあることから、「オフショア・センター」での金融取引が活発になっており、ロンドンやニューヨークが世界有数のオフショア・センターになっている理由です。
そもそも、オフショアというのは、「沖合の島」というイメージと重なりますね。これは、内内取引と内外取引は、自国の金融監督行政によって規制していくが、「沖合の島」であって、国内が絡まないなら、外外取引に関して場所を提供するという意味でオフショアとして規制を緩和しても良いわけです。オフショアのイメージは、「島」を連想させますし、現にバミューダ島やヴァージン諸島などがオフショアと言われているので、「島」のイメージが付きまといますが、金融の世界でのオフショア・センターとはこれらの「島」に限定されるわけではありません。外外取引で、場所貸しを行っているところがオフショアです。